子どもについて
35歳になりました。
34歳はたくさんがんばりました。
ヒゲ脱毛始めたし、料理始めたし、海外旅行したし、転職もしたし、ヒゲ脱毛始めたし。
35歳はもっとがんばろうと思います。
35歳になったので、子どものことを書こうと思います。
僕は子どもが大好きだけど、自分の子どもは欲しいと思いませんでした。
なぜかというと今の社会があんまりおもしろくないからです。
子どもはマジでゼロからスタートするので、つまらない社会に呼ばれたら一秒ごとにつまらない人間になっていくと思います。
でも社会の入れ物である地球は最高に好きです。
花とか山とか星とか女の人とか、本当に美しい。
単純にそれを見せてあげるだけ、子どもに地球短期留学をさせるくらいなら、こちらに呼び込んでもいい気がしますが、自分の命の後も生きるであろう命をこの時代に呼び込む覚悟は僕には持てませんでした。
それでも女の人にとって、自分のお腹に命を呼び込み、産み育てることは、男の僕には絶対にできない、人間の、生物の、最高におもしろい行動であるとするなら、そして自分の最高のパートナーがそれを望むなら、叶えてあげたいと思ってしまいます。
それでもし自分たちの子どもがこちらに来てしまったら、そりゃもう覚悟を決めて、自分たちが最高におもしろい人間になり、周りにもおもしろい人間を集め、つまらない人間を極力遠ざけ、美しい地球を存分に楽しむ方法を身につけてもらうしかありません。
こんなふうに書くと男の僕は子ども誕生について夢も希望もないように感じますが、
もし女の子が生まれたら、その子に自分を重ね、念願の女として生きる想像ができるかもしれないと思ったりもします。
それじゃもし男の子が生まれたら……それはまたそれでもっと地球を好きになると思います。
決戦~後編~
というわけでカウンセリング当日に初回のヒゲ脱毛を受けることになった僕。
待合では口元を赤くされている方やマスクで覆っていらっしゃる方を多く見かけました。複数ある施術室の扉の向こうではいったいどんな苦行が行われているのか。
答えでもない本当でもない信じてるのは胸のドキドキ胸のドキドキだけという気分でそのときを待ちました。
廊下の奥から小柄な看護師さんが現れました。
「8番。○○さん。こちらへお入りください」
番号があるのに結局名前呼ぶんかいと思いながら、その看護師さんの後について施術室に入りました。
「お荷物どうぞそちらのカゴに入れてください。あっ同じカバンだ。私その白持ってますよ」
そんな看護師さんのアイスブレイク的な言葉も全く耳に入らないまま、僕は靴を脱いで施術台に仰向けになりました。
天井の照明がやけに眩しかったことと何だかオリエンタルなBGMがかかっていたことを記憶しております。
「看護師の○○と申します。脱毛は初めてですか?」
「はい」
「緊張してますよね。大丈夫ですよ。時間はたっぷりありますから。しっかり麻酔を使いながらやっていきましょう」
看護師さんはマスクをされていましたが、そのやさしさ溢れる眼差しとお言葉に追加料金をペイペイしたくなりました。
脱毛器や麻酔器の説明があり、いよいよ笑気麻酔と呼ばれるものが鼻に当てがわれました。
「鼻でゆっくり深呼吸してください。少しずつふわふわした感じがしてきますから。お酒で酔ったような感じですかね。手足がしびれるような感覚にもなりますがそれは麻酔が効いている証拠なので問題ないですよ」
藁にもすがる思いで鼻呼吸を繰り返しました。しかし意識はクリアなまま。
「どうですか?」
「特に……」
「お酒は強いほうですか? 麻酔が効きすぎると、施術台からずり落ちそうな感覚になる人もいるんですが。少し濃度を上げましょうか?」
「はい……」
機械のモーター音が上がり、鼻に取り付けられた器具から出てくる気体の量がぐんと増えました。
あら? なんか浮かんでるような。酔っぱらってるような。春はあけぼのてきな。
「どうですか?」
「いい感じです……」
「じゃあこの濃度で進め行きますね」
「はい」
ふわふわと水の上に浮いているような気分の中、看護師さんが何やら準備を進める音が聞こえます。
「どうしてヒゲ脱毛しようと思われたんですか?」
ここでお姉さんからまさかのクリティカルな質問。
僕はこのお姉さんになら本当のことを、ずっと女の子に憧れていたことについて話をしてみたいと思ったのですが、ちゃんと答えようとすると意識が戻ってきて、意識を戻してしまうと、この後の痛みがひどくなるんじゃないかとかそんなことを考えながら、
「ヒゲが……」
「ヒゲが?」
「キライ」
とだけ答えました。
お姉さんは僕の小学生みたいな返答を笑顔でのみ込むと「そうですか。じゃあ頑張ってすっかりキレイにしましょうね」と言いました。黒衣の天使だと思いました。
「はじめはアゴまわりからいきますね」
ついにレーザー照射のときがやってきました。
冷たいジェルを塗りたくられて、レジのバーコードをスキャンするピッみたいな奴をお姉さんは僕のアゴまわりに押し当ててきました。
なんだかじわーんと熱を感じた後に、
「ピピピ」と音がしました。
え? やったの? 全然痛くないじゃん。
そう思ったのもつかの間、機械がアゴ先に近づくにつれて、
「ピピピピ」
いた! え? 痛い痛い! 痛いよ!
打撃系の痛みと燃焼系の痛みが交互にやってきやがる。
ビンタされたあとにすぐぎゅっとつねられる感じ。
それがめちゃ細かく連続でくる感じでした。
「あと一往復で終わりですよ」
やだー。「ピピピ」 ぎゃー。
その後、頬や鼻下も同じ工程を繰り返しました。ちなみに鼻下がいちばん痛みが強かったです。
僕は脇汗びっしょりで、ずっと心の中でかんにんしてつかーさいって叫んでいました。
この苦行を乗り越えられたのも全て優しい看護師さんの声がけがあったからです。
「もうすぐ終わりますよ」「痛いですよね。頑張りましょう」
途中からお産をしているような気分になりました(すべてのお母さんすいません。もっと痛いですよね)
施術後、ほとんど涙目の僕は解放感と、ずっとコンプレックスだったヒゲに対して一矢報いることができた達成感とで何だか気分が高まってしまい、「○○さん。初めての脱毛が○○さんで本当によかったです。安心できました」と言うと、
「そんなこと言ってもらえてうれしいです。これで後一年はこの仕事続けられます」と看護師さんも涙目で仰ってくれました。そのまま二人で抜け出してタピりたくなりました。
受付で支払いを済ませて次回の予約を取りました。
予約はなんと二ヵ月先。毛周期の関係で施術間隔は8週から12週空けなければいけないとのことでした。しかも脱毛が完了するには2年から3年かかるとのこと。
おヒゲでお悩みの方、メールの返信とヒゲ脱毛は早ければ早いほどいいですよ!
決戦~前編~
穏やかじゃないタイトルで始まった今回のブログ。
そうです。
ついに念願のアイツとの戦いが始まったのです。
永い間、毎朝僕を苦しめ続けてきたアイツ。
正社員よりも一人前よりも、ただ美しくなりたい僕を散々悩ませてきたアイツ。
そうです。
ヒゲです。
ついに勇気と覚悟とお金を出してヒゲ脱毛に行ってきたんですよ!!
今度ちゃんとした仕事に就けたら初任給はヒゲ脱毛に使うんだって決めてたんです。
もう気づいたら34歳でした。でもやっと有言実行したんです。クリニックを出たとき、ヒリヒリするあごをさすりながら初めて自分で自分を褒めてあげたいと思いました。
ここ一か月、新しい仕事の業務を覚えるのはそっちのけでヒゲ脱毛クリニックの比較サイトばかり閲覧していました。
やはり気になるのは脱毛効果とお値段。いろんなクリニックがしのぎを削るなか、僕みたいなフェルメールブルーを彷彿とさせる青ヒゲ(悲しい!泣きたい!)の場合は、長期戦が見込まれるため、施術回数が多いほどお得になる『ゴリラクリニック』がよかろうと、名前はチョーいやでしたが(うさぎさんクリニックとかいちごみるくりっくとかがよかったな)、ゴリラクリニックさんにお世話になることに決めました。
初回カウンセリングの予約はメールで取りました。問い合わせ内容に対してとても丁寧な返答が帰ってきたので、ついお礼のメールを送信してしまったら、「ご丁寧に返信ありがとうございます」みたいな返事が来て、これラインとかでどっちが終わらせればいいかわからなくなって変なスタンプ送り合っちゃうやつじゃーんと思いました。ちなみに予約の段階で、カウンセリング当日に初回の施術を希望するか選べるんですが、まだいくらか不安があったのでカウンセリングのみを選びました。
決戦場は新宿のとあるビルの5階にありました。
さすが男性専門の美容クリニック。院内は黒を基調としていて、スタッフの方の制服も黒。なんだかダースベーダーとかバットマンとか、ダークヒーローに憧れている親戚のお兄さんの家に遊びにきたような雰囲気でした。
受付で名前を言うと、問診票を渡されました。口コミで受付のお姉さんがめちゃくちゃく可愛い的なコメントをたくさん見かけましたが、調子が良いときの僕とどっこいどっこいといった感じでした。
待合には平日の昼間なのにたくさんの患者さんたちがいました。大学生から会社の役員っぽい初老のおじさんまで年齢層はバラバラですが、みんな美意識高そうだぜ。
記入した問診票を受付に戻すとすぐに個室に呼ばれました。ギャルっぽい見た目のカウンセラーの方が現れて、資料とパソコンを使いながらヒゲ脱毛とはなんぞやということを丁寧に説明してくださります。
内容についてはHPに記載されていることと同じで、死ぬほど予習をしてきた僕にとっては「赤は止まれだよ」と言われている気分でした。
しかし女の人とこんなにヒゲについて語らうの初めての経験でした。カウンセラーの方はそう教育されているのか、終始僕のヒゲを見つめながら説明を続けました。「まぁ立派な青ヒゲですこと」でもなく、「はぁ薄汚いわぁ」でもなく、目の前で転んだ我が子の膝小僧にできたすり傷を見るような目で、ずっと僕のヒゲを見つめてくるのです。これがヒゲ脱毛カウンセリングの現場ではなく、初デートのカフェテラスだったら迷わずお茶を中断して、彼女にフォーナインズのサングラスを買い与えるでしょう。
あらかた説明が終わると彼女は席を外し、次に医師の方がこられて今度は脱毛のリスクについて説明があります。その時こられたのは僕と同じ歳くらいの男性の方でした。黒い服をお召しになられていたので全然医師感がない。そしてよくある壁に掲げられた医師免許がないので、全然医師感がない。まぁでも医師なんでしょう。
その後はまたカウンセラーの方とバトンタッチして料金の説明。どうします?やりますか?といったカウンセリングではなく、やるていで進めてくるカウンセリングでしたし、いろいろオプション(事前のピーリングとか術後のスキンケアとか)をゴリラ押しされましたが、嫌な先輩や友達からの誘いを断れるくらいNOが言える人なら全然断れるレベルのゴリラ押しだったと思います。
僕は元々契約することを決めてきていたので、後は初回の施術がいつになるかが気になっていました。予約が取りづらいという口コミは多数見かけていました。
「今日は料金を支払って、次回の予約を取る感じですか?」と伺うと、
「実はちょうどこの後の枠にキャンセルが出てすぐにでも初回の施術が受けられそうなんですがいかがですか? お支払いは施術後で結構ですので」とのこと。
やったー!なんて僕は運がいいんだー。やっぱり日頃の行いがものをいうなー。
でもなんか胡散臭いなー。痛みが強すぎて続けられなかったらどうしようかなぁとか悩んでたけど、やっちゃったらもうキャンセルできないじゃーん、でもやらないと痛み分らないじゃーん。
「ヒゲ剃ってきたばかりなんですけど大丈夫ですか?」
「赤くなっていないんで全然大丈夫ですよ。私も結構肌荒れひどい方で、ほらここなんか荒れてるんですけど、ガンガンレーザー当ててますし」と言いながら彼女は長い髪を掻き分けて少し肌荒れした白いうなじを見せつけてきたので、キィーとなった僕は施術を受けることにしたのでした。
次回、『決戦~後編~』、綺麗なバラには棘があるのさ、に続きます。
最後の晩餐
人生の転機は30代半ばで訪れるとか訪れないとか言いますが、先日走馬灯に出現レベルの衝撃的な晩餐があったのでご報告します。
以前ブログでも書きましたが、僕は高校卒業後吉本の養成所に通っていた時期があり、この度当時の同期メンバーと15年ぶりに集まって飲む機会が持てました。
雨の日の新宿のとある餃子屋に集まったのは僕を含めて三人。
一人は2年程でお笑いの世界に見切りをつけ、現在はバリバリの営業マンのK君。大阪で働くKの東京出張を機に、Kがこの席を企画してくれました。元々行動力がある奴。
もう一人は今でも養成所の頃と同じ相方とお笑いを続けているM君。売れてはいませんが隔週くらいで所属事務所のライブに出演し、賞レースにも欠かさず参加している、現役の芸人。
そしてお笑いはたった1年で諦めて、レールから外れている自分にひどく怯え、親に頭をさげ大学に入り、すねをかじりつくし、今度こそちゃんと働くと思いきや、就活途中で誤って村上春樹を読んでしまい、今度は小説家になると言い出し、仕事を転々と変えながら、うだつが上がらないを体現し続けている僕。
ひさしぶりやな
みんな全然変わらんな
M、まだお笑いやってるなんてほんま凄いわ
え? 子どもおるの? 大丈夫なん?
バイトでなんとかか……大変やな
K、家買ったん? そんな稼いでるん?
年収一千万くらい……そっか……
Kがソフトバンクの孫さんがどんだけ凄いかを語り出し、その後大阪と東京の風俗の違いを熱く説明し始めたあたりで、そろそろお開きかなぁと思っていましたが、Kが急に「○○って呼んだら来てくれへんかな?」と言い出しました。
○○は同期でめちゃくちゃ売れている芸人の一人。
そりゃ養成所の頃は友達やったけど、流石に来ないやろう。電話番号とかも変わってるんちゃうか。しかしKは迷わず電話をかけるとなんとすんなり出てくれて、ちょうど地方ロケからの帰りやから、一時間後には合流できるとのこと。
その後もKは新宿のハプニングバーの素晴しさを永延と語っていましたが、僕はハイボールをあおるばかり。何だか初恋の人と再会するような気持で○○を待っていました。
そしてついに到着した○○に小さな餃子屋は大パニック。周りの席の女子は握手を求めるし、店員さんは色紙を持ってくるし。
ようやく落ち着いた○○から驚愕の一言。
「○○②と○○③も声掛けといたで。後から来てくれるって」
○○②と○○③も同期のめちゃくちゃ売れてる二人。ちなみに僕は養成所在学中○○③とコンビでした。
ややあって○○③が来て、続いて○○②が来て。餃子屋がハチャメチャになったので、個室のある飲み屋に移動しました。
語り始めたらあっという間に15年前の六人に戻りました。
千日前のマクドで、ハンバーガーひとつ買って、水何杯もお代わりしながら夢語った15年前。オーキャットの広場でペットボトルをスタンドマイクに見立てておもんないネタ何回も練習したあの頃です。
みんなで売れたい売れたいって言ってて、15年後ほんまに売れた三人が目の前にいて、本当に不思議な気持ちになりました。
変わってないとは言いつつも、それぞれの15年が間違いなくそこにあって、あの頃はもちろん、今もみんなちゃんと戦っていました。いろんなもん手に入れて、いろんなもん失って、戦う相手変わったかもしれんけど、やっぱり戦い続けていました。
○○が僕に言いました。
「さるたこはいま何してるん?」
「小説家目指してる。ぜったい賞獲ったるねん」
僕は○○にこう答えながら本当に死にたくなりました。
だって結局書きたいことなんて何ひとつないんやもん。
お前らに負けるんがくやしいから、賞が獲りたいだけで、この数年くそおもんないことなんとか書いてただけやもん。そんなんで面白い小説書けるわけないって、途中からわかってきてたけど、夢追うのやめたら、ぜんぶぜんぶなしになってしまう気がして……
夢の現実と正面から戦っている奴らの前で、また口先だけのことを言ってしまって、一回死にました。
蘇ってようやく気がつきました。
みんな真剣に今と戦ってるのに、僕はずっと過去と戦っていたんやなぁと。
人間と戦わない奴に面白い小説は書けません。
この晩餐から、また新しい15年が始まりました。
『イラストレーション展 彼女』 江口寿史
しもだて美術館で開催された江口寿史さんの『イラストレーション展 彼女』に行ってきました。
僕が行った日は会期の最終日で雨が降っていました。
降り立った下館駅からまっすぐ駅前通りを10分くらい歩くとしもだて美術館に辿り着くのですが、雨の影響か通りには車も人も全然いない。
なのに会場に着くとあれまたくさんの人。みんなここにおったんかい。
僕は江口さんが描く女の子たちにずっと心を惹かれてきました。
そりゃクラスのマドンナにも、ガッキーにも心惹かれてきましたが、江口さんの描く女の子たちは、なんというか、やだー女の子ってやっぱ最高じゃんっていう瞬間とか気持ちを全部ぎゅっとまとめて瓶の中に閉じ込めちゃった感があるんですよね。うーん何言うとんねん。
展覧会タイトル『彼女』のとなりには、「世界の誰にも描けない君の絵を描いている」というコピー。江口さんにとっての彼女はいったい誰なのか、それを考えながら一枚一枚じっくり観て、出口付近でやっていたムービー観て、また入り口戻って今度は一枚一枚観たりパシャパシャ(撮影OK)したりして、またムービー観て、とりあえずもっかいパシャパシャなしでじっくり3周目して、それでも名残惜しい気持ちで出口出たら、たくさん『彼女』たちのパネルが並んでいたのでなんだよくわからなくなって下館から出られなくなりました。
ここからは気に入った『彼女』を見つけたときの僕の心の声。
まずはコレ
ぎゃーなんて可愛いの!やっぱりショートボブ最強だ。しかも内側にちょん。
海街diaryのときの広瀬すずちゃんをどうすれば冷凍保存できるか散々悩んだけど、これがあるならもう安心だ。
次はコレ
いやはや先生!デニムと白Tが全女子の制服だって全部分かってらっしゃるじゃないですか!
中には少し大きめの白シャツとデニムが最高とかいう不届き者もいますが、シャツはジャストサイズですよね!ねー!しかもバックショットとはあっぱれだ!
こんなことやり出したらどんどん読者の方を置き去りにしちゃうので、最後にコレ
ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!なんじゃこの構図!いったいどうしらこんなの思いつくんですか!オーバーオールと女子が合うことはパフィーやaikoあたりで気づいていましたが、まさかオーバーオールとタイヤがこんなに合うとは。あぁ人生、一生勉強だ。あと今度誰かと待ち合わせるときはこの立ち方しょっと。
『彼女』たちと一緒に江口さんのこんな言葉が掲げられていました。
「女に生まれなかった悔しさが、絵の原動力になっている。」
『彼女』たちに惹かれる理由がはっきりすとんと分かりました。
江口さんも僕と同じだったんだ。街で素敵な女の子を目にするたびに悲しい気持ちになっていたんだ。でも江口さんは本当になりたい自分を絵で叶えようとしていたんだ。江口さんの描く『彼女』は自分なんかもしれんなぁ。でもこんなにこんなに可愛い女の子を描き続けられるのは逆に『彼女』に絶対なられへんからかもしれんなぁ…とか考えながら作品を観ているとなんだか泣けてきました。
さらにはこんな言葉も。
「女性の何気ない仕草に、母性も無邪気も優しさも生活も、全てを含んだ色気がフォルムになってる一瞬があるんです。」
まさにそれです。僕が、やだー女の子ってやっぱ最高じゃんって思うのはまさにその瞬間なんです。でも自分が男に生まれたからこそその瞬間に気づけるのかもしれんなぁとも思いました。
展覧会で一番驚いたのは女性のお客さんがめちゃくちゃ多かったところ。
江口さんの描く女の子は男の理想を詰め込んだだけの女の子なんかじゃなくて、リアルガチ女子たちからも、柴犬とかマカロンばりにカワイイって言われていました。女子たちがどんな気持ちで『彼女』たちを観ていたのか聞きたかったなぁちくしょう。
その日東京に戻った僕はなんとなく吉祥寺に行っちゃいました。
吉祥寺の街を歩く女子たちは『彼女』たちみたいにキラッキラ。
あぁ、ほんと女に生まれたかったな。
雨降る前に帰っておいで
「雨降る前に帰っておいで」
あの人に言われていちばん好きだった言葉
たくさん好きなところあったよ
急いでいても信号守るところ
雨上がりに必ず傘忘れるところ
買った靴を履いて帰るところ
なんでもハチミツかけるところ
改札で一か八かピッてしてみるところ
よく喋るのに時々静かに読書しているところ
ビールの一口目けっこう飲むところ
自転車乗るのが下手なところ
意外に花の名前知ってるところ
考えがまとまるまでちゃんと待ってくれるところ
そんな好きなところ
もうなくしちゃったから集める
思い出してかき集める
また他の誰かを好きになるために
『夏物語』川上未映子
もしも進路相談があって担任に「将来何になりたいの?」って聞かれたら、早押しクイズくらいの勢いで「川上未映子になりたい!」って言っちゃいたいくらい好きな作家さんが川上未映子さんなんだけど、彼女がこの夏にぶち込んできた『夏物語』という長編は、そりゃあもうおったまげ。『乳と卵』の時もぶっ飛ばされたけど、今回もくりびつぎょうてん、盆に誕生日とタピオカとクリスマスと正月、全部まとめて一遍に来やがったって感じでした。
これまでブログで散々書いているけど、僕は男性だけど女性になりたいと思っている男で、男と女というものがなんなのかしらっていうことを死ぬまで考え続けていこうと決めているんだけど、先日親族に不幸があって、納棺後に妻から「もしあんたが死んだら棺に何入れればいい?」って聞かれて、真っ先に浮かんだのがスカートで、次は必ず女性で生まれてきますようにってスカート入れて欲しいって言いたかったけど言えなかったのが僕でした。
そんな僕が読んだ『夏物語』の感想が以下。
※ネタバレあります。
読後まず思ったのは、おい他のメンズ!お前はこの夏子の物語をどう読んだんだい?でした。僕は居ても立ってもいられず、一番近所の男友達に電話しようとしたけど、そいつの愛読書がホリエモンの本と『グラップラー刃牙』だったことを思い出して止めました。
『夏物語』は夏子が自分の子どもを産むことを決意し、実際に授かるにいたるまでを描いた物語ですが、川上さんは、登場する女性キャラ一人ひとりをめちゃくちゃ鮮やかに描く反面、男性キャラはほぼ精子としてしか書いていません。まさに現実社会へのカウンター。
男なんて精子製造機。精子さえあればいい。おそらく読後に悲しい気持ちになった男性読者は多かったのではないでしょうか。流しの『九ちゃん』のエピソードが無かったら、僕はちんちんを切っていたかもしれません。
なんで悲しい気持ちになったのか。一つ目は自分の中に男として女に必要とされたいという気持ちがちゃんとあったことを引っ張り出されてしまったこと。僕のなりたい女は男の理想の女だったのかもしれません。
二つ目は、大抵の男は女を好きって思っているから、女も思ってるんじゃねっていう希望みたいなものは男性社会が作り上げた幻想で、本当は男なんて全員死ねが女のコンセンサスなのではないかという可能性。川上さんの筆があまりに説得力がありすぎて、おちおちスーパーにも行けなくなりました。
そしてさらに悲しかったのは、『夏物語』その大半が、僕の主題である男と女を飛び越えて、命についての物語だったからです。そして読めばわかりますが、命の話はまさに女の話であり、そこには本当に精子一匹の隙間しか男の出る幕はありません。
夏子は本当にぐわんぐわん、振り回され、振り回し、走り回った末、自分の子どもに会うことを決断します。
「忘れるよりも、間違うことを選ぼうと思います」(p525から引用)
この一節をちゃんと読めるのはおそらく女性だけじゃないでしょうか。あぁ悔しい。
この夏の人生変えちゃうような川上未映子さんからのメッセージ。
しょうもない精子の僕はどう受け止めればよいのか。
夏子と巻子と緑子の間には、あんなに愛が溢れていたのに、
天気の子じゃなくて、男と女の間には、愛にできることはもうないのでしょうか。
「ねえねえ。子どもはどうやって生まれてくるの?」
「ねえ。どうして人は生まれてくるの?」
こんなことを無邪気に聞いてくる子どもが僕にはいなくて、少しほっとしながらも悲しいのです。