『昭和歌謡大全集』 村上龍

またも村上龍さんです。

まとめ買いしちゃったのでしょうがないんです。

昭和歌謡大全集』すごいタイトルですね。純文学?小説のタイトルとはとても思えません。

※以下ネタバレ注意

 

 

この作品は、同じ龍さんの『半島を出よ』と共通のキャラクターが出てくるということで読んでみました。

『半島を出よ』を未読の方、すみやかに読んでください。ドラゴンボールとかスラムダンクを読んでないくらい人生損してます。

昭和歌謡大全集』のあらすじを簡単に言うと、頭のおかしい青年グループと、同じ「ミドリ」という名前を持ったおばさんグループが真剣に殺し合うという内容です。それ以上それ以下でもありません。

 

例えば夜寝る前に上記のプロットを思い立って、「きたーこれめっちゃおもろいやんけ」と言いながら机に向かって書き始めても、正常な人間であれば、500文字くらい書いた時点で、そっとペンを置いてベットに戻り、書かなかったことにすると思います。ちょっといかれた人なら原稿用紙5枚くらい書いて、疲れてベットに戻って、年上の異性と性交渉する夢とか見て、朝起きた時点で、書いたものを破り捨てると思います。でも龍さんは本当にぶっ飛んでいるので最後まで書き切ります。しかも相当楽しそうに。

 

彼の文章は読んでいて本当に勇気づけられます。なぜなら、読者に対して一切気を使っていないから。

本来小説なんて全く必要のないもので、龍さんが小説を書かなくても世界は回りますが(たぶん今よりスムーズに笑)、TOYOTAが車を作らなくなったら世の中えらいこっちゃです。

つまり小説とは書きたいから書くのであって、読者や出版社から書かされているモノだったらそんなもの小説でもなんでもないわけです。

世の中こんなにも周りに気を配って、人の顔色伺って、みんな生きてるのに、龍さんはアホみたいな青年とおばさんの殺し合いという本当にどうでもいい話を笑いながら語り、僕は何だって選択できる恵まれた社会環境の中で、何度もいいますが、くるった青年とおばさんの殺し合いという本当にどうでもよくて何の生産性もない小説に一度きりの人生の時間を惜し気もなく使うわけです。

 

青年グループもおばさんグループも、生まれて初めて心の底からやりたいことに出会います。それが皮肉にもお互いを殺し合うことなわけです。

やりたいことに出会い、生きる目的が絞られた人間は、たちまち見える景色や言動、周りからの評価などが変わっていきます。

生まれてきたらみんなどこかしら、頭のおかしい青年グループであり、名前の同じおばさんグループなわけです。

龍さんみたいにやりたいことに出会って笑いながら生きるか、そういう人に笑わせられながら生きるか、人生はどちらかしかないのかもしれません。

 

次回は西加奈子さんの『舞台』を読みます。