DIYおじさんの話

職場にDIYおじさんがいる。

すでに還暦を過ぎた嘱託の職員さんで、通常業務がヒマなときは、切れた電球を取り替えたり、滑りの悪いドアの建付けを調節したりと、現役時代のヴェルディ北澤みたいにいつも忙しく職場内を動き回っている。

腰回りは、リーバイスの501ではなくクレ556が引っ掛けてあるそのおじさんは、先日も壊れた加湿器を発見すると、自ら直そうとして、さらっと感電して、「イテテ」と言いながらヒヨコみたいに飛び跳ねていた。

まさに、どうれ(D)、いっちょ(I)、やってみるか(Y)おじさんなのである。

昔はやんちゃでしたフレイバーぷんぷんで、外見は玉置浩二に似ていて、声や話し方は、ヒロミにそっくり。そんなDIYおじさんが昨日、昼休みに僕の机にやってきて、「あのさ、忙しいとこわりいんだけど、その、ラインっていうやつ? ちょっと教えてほしいんだわ、娘と孫が使っててさ、それでさ……」と日焼け顔を少し赤らめて言ってくるのである。

しょうもない表のセルの幅とかを広げたり縮めたりして遊んでいた僕は、そりゃもうキュンキュンしてしまって、目の前のパソコンなんてザンギエフお得意のスクリューパイルドラバ―でぶっ壊して、DIYおじさんとラインで遊ぼう!と思ったら、壊れたパソコンでまた感電するおじさんの姿が容易に想像できたので、パソコンから手を離して、「あっ、イイっすよ」って少しもずっきゅんしてなさそうに答えては見たものの、わたくしそう言えばガラケーユーザーで、ラインを指南できる可能性は皆無で、そしたら隣の机の、新卒で若さだけが取り柄の、職場では春雨しか食べていないのに小太りで、どうせ家帰った瞬間ドンタコスとか食べとるんやろが、ていう感じの女が、「ラインですか? アタシが教えますよ。さるたこさんって確かガラケーでしたよね。ぷぷぷ」とか言い出しやがって、はうー、携帯触るとき、カバンの中で隠しながら触ってたのに、ばれとったのかー、カバンの中でパカパカするの結構難儀やったのに、って心泣きしてたら、DIYおじさんが、「そうか? わりいな」とか言いながらさらに顔赤らめて、女の隣に行ったので、ああ、やっぱり若い方がいいんやなぁとか思いながら、またセルを縮めたり広めたり、今度は2つを1つにしたりしていたら、女がスタンプとかアカウントとか横文字ばかり並べやがって、おじさん、感電したときみたいにあわあわし出したので、おじさんの腰からクレ556を取って、よっぽど二人の間に吹きかけたろうと思ったときに、あっ!これって恋かもしらんって思ったのです。

人が恋に落ちるときってどんなんかんなんって考えますと、結局、TPOとGAPの織りなすシンフォニーとかかなとか思ったりもしますけど、そのGAPって、くそ真面目な人が、いきなり万引きしても、なんてこの人素敵なのかしらん、とはならないわけで、そのGAPって、ほんまによくわからないもんですが、たぶん、人生を楽しむ上で非常に大切なもので、結婚してからは、意図的に遠ざけているのか、最近とんと気にしてないなぁと。でも人に対してじゃなくても、モノとかコトに対しても、このGAPとの出会いって、たぶん、結婚とか出産とかした後でも、大事にせなあかんやろうなとか最近思うのでした。