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人生30過ぎてからでしょう。

好きな本、映画、日々考えていること、気の向くままに書きます。

春の再会

 

昔の恋人と再会するために生きているんじゃないかと思う。

そして、再会する相手は、振られた人より、振った人との方がなおさら良い。

 

「男は、一度付き合った相手がずっと自分のことを好きだと勘違いしている」って勘違いしている女がいる。

男も女も次に進みたいから振るわけであって、そのあと相手が自分のことをどう思うかなんて別に興味はない。恨まれたり、後を付けられたりしなければ何でもいい。

 

再会した相手は、絵描きの女性だった。

散々泣かせて別れた三年後、彼女の個展が僕の街でも開かれることになったのである。

観に行こうか行かまいか迷った。

何のために行くのか、頭で考えても正当な理由は一つも思いつかなかった。

彼女の作品を観るため。

お世話になったお礼。

辛い思いをさせてしまった埋め合わせ。

彼女の今が幸せかどうか確かめるため。

どれも彼女からすれば、必要ないことこの上ない。

 

結局、僕の顔を見た彼女がどんな表情をするか。何を話すか。

僕は彼女の顔を見てどんな気持ちになるか。それが知りたいだけだった。          

 

再会の気まずい雰囲気を打破するためには最初が肝心だ。

僕はこういう場合、いつも相手にいきなりタックルをする。

物理的に相手にぶつかることで、他のことも一瞬で縮まる。

 

「わっ、びっくりした。」「よっ。」「久しぶり。」「久しぶり。」「元気?」「元気。」

言葉が出てこない。続かない。タックル、初の失敗。

沈黙。こんなに続かないのは、服に興味がないのにエントリーしたユニクロの面接以来だ。

 

「きれいな街だね。」こいつ、そんな映画みたいなセリフ本当に言いやがった。

「結婚したの。」「そっか。」それは知っていた。

「もうすぐ子供も生まれるの。」「そう。」それは知らなかった。

「そっちは?」

「風邪引いた」

彼女は笑った。うんと久しぶりに見た気がした。

 

僕と絵描きの彼女は幸せになるために出会った。

それは今までもこれから先も変わることはない。

それにしても幸せな会話だった。