人生30過ぎてからでしょう。

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本田のスルーパスからの長友のダイレクトクロスを岡崎がダイビングヘッドで決めたら一億円

 

9月1日から、サッカー日本代表のロシアW杯アジア最終予選が始まる。

ぜひ6大会連続の本戦出場を決めて欲しいものである。

 

サッカーが始まると、世界で一番優しい夫であるはずの僕が、嘘のように亭主関白になって、ハイパーメディアクリエーターである妻を怒らせてしまう。

自分でもどうしてそうなってしまうのか解せないのだが、妻がキッチンでトントントンとやりながら「ねぇ、飲み物何にする?」とか聞いてくれているのに、僕はテレビに向かって「よっしゃー、本田!行け!お前の全てを見せてみろ」、「真司!いったい何をやっているんだ、本当のお前はそんなもんじゃないだろ」、「長友!お前は何のためにイタリアに渡ったんだよ、世界一のSBになるんじゃなかったのか」とか喚き散らし、普段であればその後妻が運んで来てくれた食事を「うんまい、うんまい、お前さんはすごい!まさにうちの鳥越シェフだよ、あれ?それは都知事になれたかった人かな」とか褒めながら一口ごとに妻とハイタッチして食べるのに、サッカー観戦中になると、それらの料理に目もくれず、「オカザキーーーーーーー!」とか叫びながら、ただ食材を箸で突き刺し、機械的に口に運ぶだけなのである。

とある試合終了後に、妻から「サッカーのどこが面白いの?」と聞かれた。

僕には「なぜ赤信号は渡っちゃいけないの」とガキんちょが戯言を抜かしたように聞こえたので、口を開いたまま天井を眺めて阿呆を演じていた。

妻は続ける。「全然面白くないんだよね。点数ちょっとしか入らないし。オフサイドとか何それって感じだし。だいいち、なんで足でやるの? お行儀悪くない?」

僕の頭には初めて『離婚』の二文字が浮かんだ。

というのは言い過ぎだけど、その後一生懸命、本田のスルーパスからの長友のダイレクトクロスを岡崎がダイビングヘッドで決めることが、宝くじで一億円当てるくらい奇跡のような出来事であるということを長々と分かりやすく丁寧に、スマホをひゅいひゅいとやりながら聞いている妻に説明したけど、ちっとも理解してもらえなかったので、悔しいので、この場を借りてもう一度説明させていただく。

 

まず、眩しいくらいに青々としたピッチの上に本田圭佑が日本代表のユニフォームを着て立っている。

この姿を見るだけで僕くらいになれば目頭が熱くなってくる。既にハイボールをあおっているなら泣いてしまっても仕方がない。

本田の後ろには本田を目指してサッカーを続けている何万人もの無名な選手たちがいる。

本田の前には本田が憧れた、中田やカズなどたくさんの有名な選手たちがいる。

それら全部を背負って本田はピッチに立っているのだ。

 

本田が相手のボールをカットして、左サイドを駆け上がってくる長友に絶妙のスルーパスを送る。

もちろん本田がボールをカットする相手選手も、本田と同じくらい有名無名の選手の想いを背負っている。そんな選手が簡単にカットされるはずがない。カットというのはミスや油断からくるものである。国の代表が平常時にミスや油断をするはずがない。本田は経験と綿密な準備によって相手のミスや油断を誘うのである。

 本田がボールを奪う。奪われた選手が取り返そうと本田の脚にスライディングする。日本中が「おい!ファールだろ!」と叫ぶ。だが本田は倒れない。

中田英寿より以前の選手はここで倒れてファールをアピールしていた。元ヴェルディ川崎の北澤とかはウェービーロングヘアーを揺らしながら「イタイヨイタイヨ勘弁してヨ。アミーゴ」とか言っていた(はずである)。しかし中田という選手はそこで倒れていては世界で通用しないことを日本サッカー界に身をもって伝えた。

ちなみにアスリートの脚と脚が本気で衝突するというのは石と石が当たるようなものなので条件が整えば、最悪の場合、出火する。僕も高校生のとき、球技大会で、バスケ全国大会優勝チームの選手とリバウンドで争ったことがあったが、その選手に横からぶつかったとき電信柱かと思った。アスリートの身体はほとんど石である。

 

体勢を持ち直した本田は、絶妙のスルーパスを長友に送る。それはまさに針に糸を通すように、全力で駆け上がってきた長友の左足だけに届く。必死で追い付いてくるディフェンダーを横目に長友はトラップやめ、ダイレクトでゴール前にボールを折り返す。

ここでトラップしていては、無論相手に追いつかれる。いったんトラップして相手をドリブルで抜いてクロスを上げる方法もあるが、その場合ゴール前にディフェンダーが戻る時間を作ってしまう。勝負は一瞬。本田もそれをイメージしてダイレクトで上げるしかないギリギリのところにボールを送る。

ちなみにサッカーは一試合に約11キロくらい走るらしい。僕もマラソンが趣味で一日おきに11キロくらい走っているが、僕の場合は、あらあらあのお花キレイだね、あらあらあの車に乗ってるお姉さんキレイだね、という具合のあらあらランニングだ。しかし長友の11キロはそのほとんどが鬼の形相でのダッシュである。

おそらく長友はサッカーを始めてから正確なクロス上げるための練習を一億回くらいやっているだろけど、そのほとんどがこの一瞬のシーンより蹴るのが楽な状況なのだ。10キロ近くダッシュを続けたあげくに、これまでで一番強いディフェンダーを相手にしながら、かつ一番厳しく、そして日本中の期待を一身に背負ったパスを本田が出してくる。長友はそれを、岡崎の頭だけに確実につなげなければならない。そのために彼はイタリアに行ったのである。

一方の岡崎はずっと仲間を信じて、ただひたすら走り続けている。彼はディフェンスもやるフォワードなので、ピッチのほとんどの範囲を走る。前後半90分、全力でゴール前に戻り続けても一度も正確なパスが回ってこないかもしれない、それでも彼は絶対に来ると信じて走り続ける。本田なら、長友なら、絶対にクロスを上げてくれる。彼はサッカーを始めたその日から、ずっと仲間を信じてきたのだ。誰もいなくなったグラウンドで、つながってきたパスは絶対に決めてやろうと誰よりも愚直にシュート練習をしてきた人なのだ。

本田も長友も岡崎も、天才ではなかった。

みんなチームメイトの誰よりも足が遅く、シュートが下手くそだった。

「おまえみたいな奴がJリーガーになれるかよ」

3人ともそう言われ続けて、そしてそれをはねのけてきた。

3人より上手かったやつがどんどんサッカーをやめて、そいつらより上手い仲間ができて、またバカにされて、今度はそいつらもやめて……そんなことを繰り返していたら3人は日本代表として出会うことになった。

本田なら絶対パスをくれる。長友なら絶対クロスを上げてくれる。岡崎なら絶対決めてくれる。

この1点というのは日本でいちばんサッカーが好きな3人の笑えるくらいに純粋な信頼の形なのである。

 

岡崎の頭から放たれたボールが、キーパーの手をかすめてゴールネットを揺らす。

その瞬間僕は立ち上がり、涙を流して叫ぶ。

「オカザキーーーーーーー!」

僕は妻に駆け寄る。「見た? 今の岡崎、見た?」

「あ? よっしゃー! ゼニガメ、ゲット!」

ゼ、ゼニガメ? 

ゼニガメやるやん。岡崎、さらに頑張ろうか。

 

誰か、僕にポケモンGOの面白さを説明してください。