村上春樹がノーベル文学賞をとる前に
もうすぐノーベル文学賞の発表です。
この時期になると何かと話題になる春樹さん。
本好きが集まって、どの作家が好きかって話になると、なぜか名前を挙げにくい春樹さん。
スウェーデンの会議室でもそんなふうに名前を挙げづらいのかしらん。
もし賞をとってしまったら、さらに春樹さんの話をしづらくなりそうなので、今のうちに。
僕の一番好きな作家は村上春樹さんです。
一番好きな作品は『海辺のカフカ』です。
『海辺のカフカ』を読んだのは大学3年生で、就活する前に海外にでも行っとこうと思ってニューヨークに一か月住んで、帰国した頃でした。
春樹さんの二冊で1500円の小説は、バイトで貯めた100万を全部つぎ込んだ僕のニューヨークの一か月間を、軽く超えてきました。小説は事実より奇なり……かも。
春樹さんの物語の主人公はまさに僕のことだと思いました。
これまでどんな物語の主人公にも感情移入しづらかったのに、これは僕のことを書いていると心から思いました。そして就活なんて放っておいて彼の作品を全部読み漁りました。
僕は友達に村上春樹って知ってるかと聞いてみました。みんな知っていました。
そしてみんな僕と同じように自分のことを書いていると言うのです。
僕は絶望しました。
自分のことを特別だと思っていたのに、僕は圧倒的に多数派だったのです。
それと同時に、希望を抱きました。
世界中の人が同じかけらを持っているんだと。
それからたくさん小説を読んできたけど、いまだに『海辺のカフカ』より面白い小説には出会っていません。
ただ、自分で小説を書いているときは、小説を読んでいるときよりも面白い瞬間があります。
村上春樹さんは、僕を読む側から書く側に変えてくれた人。
恩人と言えるように頑張ります。