『何者』 朝井リョウ

 

三浦大輔さんが監督した映画がとても素晴らしかったので、朝井リョウさんの原作小説もすぐに読みました。

 

「あなた、何者?」

 

おそらくだれもが避けて通りたい質問じゃないでしょうか?

この質問から逃れるために、みんな天気予報を確認したり、美味しいものを食べたり、こじゃれた服を着たり、面白いドラマを観たりして、話題を増やしているんじゃないかと思います。

 

数年前、僕にも降りかかった就活ですが、本当に地獄でした。

自分のことを自分で営業するなんて、シャイボーイの僕にとっては、鏡の中の自分とずっとにらめっこをしているようなものでした。

グループディスカッションや集団面接のときは、きまって頭がボーっとして、とあるお笑い番組の大好きなシーンに、ひらひらと逃避していました。

 

キャー!

どっ、どうしましたか?

この人、変なんです……

何だ君は?

何だチミはってか? そうです。私が変なおじさんです。変なおじさんだから、変なおじさん♪

 

高校時代、男の子は仲間内で夢を語り合うもので。

僕はお笑い芸人になるって言ってたし、Tはオシャレさんだから自分のショップを持ちたいって言っていたし、Rは勉強ができたから弁護士になりたいって言ってたし、Jは真面目だから学校の先生になりたいって言ってたし、母親だけに育てられたYは「なりたいもんなんてなんもねぇ」って言ってた。

 

数年後、Jは念願の先生になった。

Jだけが何者かになった? じゃあTやRやYはいったい今何なの?

もしかするとTやRは何者かになるまでの途中なのかもしれない。

じゃあYは死ぬまで何者にもなれないの?

 

数年前、僕は久しぶりにTと会って、芸人になることはあきらめて、次は小説家を目指すと宣言した。

「芸人がだめなら小説家か……お前らしいな」

お前らしいって……少しムッとしたけど、たしかに僕らしいと思った。

 

『何者』には人によってそれぞれ解釈があると思うけど、僕にとってのそれは夢の自分だ。

だから僕は、まだ何者にもなれていない。