『マチネの終わりに』 平野啓一郎

 

遅ればせながら、昨年、2016年のさるたこ文学賞は、

平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』に決定いたしました。パチパチパチ。

 

この作品、男女の恋愛を主題にした物語のなかで、最高到達点にいっちゃったんじゃないでしょうか。(ちなみに僕が選ぶマチネ以前の最高到達点は、フジテレビのドラマ『やまとなでしこ』で、その前はスタジオジブリのアニメ『耳をすませば』でした。桜子さん! しずくー!)

 

このつながりやすすぎる時代に恋愛の物語をつむぐのはおそらく大変で、なんとかして男女をすれ違わせないといけないから、男女の体が入れ替わったり、契約結婚したりといった設定を物語に組み込むわけですが(断じてディスっているわけではありません。映画の方はサントラヘビロテだったし、ドラマの方は妻と一緒に踊り狂ってました。ヒラマサさーん!)、マチネにはそういった創作的な設定がありません。それでも男と女はすれ違うわけなんですが、その過程においてほとんど瑕疵が見当たりませんでした(一か所だけ、この小説に一気にエンジンをかける重大な行為があるんですが、このつながりやすすぎる時代を逆手に取った行為として、良しとしておきます。さるたこ、何様やねん!)。

 

恋愛っていうのは出会いの場面がいちばん素敵なんです。

真新しい小説のページをめくるときと同じ気分。

なんにも知らない相手のことを、視線と言葉のやり取りで、読み解いていく。

お互いがそれぞれの人生で蓄えてきた情報や経験をカードみたいに出し合って、それまで全く別々だった人生を少しずつ近づけていく。あの過程が最高に素晴らしいのです。

マチネの主人公たちはそれなりに年齢と経験を重ねているので、馬主だと嘘をつくことも、相手より先に図書カードに名前を書くこともいたしません。

マチネは、大人の男女の恋のはじまりをとっても美しく描いているのです。

 

恋のはじまりっていうのはいつだって夢みたいだから、これが現実に起こったことなのか、なにかの物語で読んだことなのかあいまいなんですが、星が落ちてきそうなきれいな夜空の下で、たまたま帰りが一緒になった気になる女の子と話しながら駅に向かって歩くなかで、会話がはずんで、心がおどって、もうしばらく駅に着かなくてもいいのになって思って、たぶん相手も同じこと感じているんじゃないかとか、もう少し話たいけど、カフェとかに入るのは違うんだろうなとかそんなことを感じながら、お別れする夜。

掴みどころがないけど、いつかまたって待ちわびている、そんな恋のはじまりの空気をマチネはしっかり閉じ込めた一冊なのでした。