『大空で抱きしめて』 宇多田ヒカル
今にいるけど、明日とか、夢を叶えた自分とか、そんなことばかり考えてしまう。
今にいるけど、昨日とか、いちばん好きだったあの人のこととか、そんなことばっかり考えてしまう。
たぶん、これまでの今も、これからの今も、別の時間のことばっかり考え生きているんだろうと思う。
だったら、高校生の僕も、社会人になった僕も、結婚した僕も、親になった僕も、ぜんぶ曖昧で、ぜんぶ違う。
からだは今にいるのは間違いないんだけど、僕はほんとうはどこにいるんだろう。
ここにいるよ。
大丈夫、ちゃんとここにいるよ。
そんなふうにだれかに言ってもらえないと、ずっとずっと雲の中のままだ。
ここからだと、だれのことも触れられないし、だれのことも傷つけられない。
傷ついたり、裏切られないと、ここがどこで、僕がだれだかわからないんだ。
だれか、雲をはらって、僕を見つけて、大空で抱きしめて。