ジタバタ

 

先日妻さんに、結婚して4年半が経ちましたが、あなたはどこで暮らしてもお友達ができるし、お気に入りの場所を見つけるし、四季を楽しむし、朝はなかなか起きれないけど行ったらちゃんといい仕事したっていう顔して帰ってくるし、今だって、ここ東京で、ケンカするくらいの仲間と終電逃すくらいのめり込める仕事を手に入れているけど、僕は君と結婚してからいったい何を手に入れたのさ、ってもっと穏やかにお優しく言葉を選んでお伝えしちゃったら、

「犬に触れるようになったじゃん」

と言われて、もうしばらくこの女と共に暮らしていこうと腹をくくりました。

 

たしかに僕は植物とか動物とか言葉を利用しない生命体にあまり興味がなかったんだけど、一年程前のある日仕事から帰ってきたら知らない柴犬が家の中にいて、セックスより掃除が好きな僕は、とりあえず命を冒しててでもつまみ出そうと近づいたら、「迷い犬保護しました」と満面の笑みで妻さんがボールに水を入れてキッチンから出てきたのでした。

僕はなるたけ家の床が汚れないように、犬が動いたら最初に居た位置に戻す、動いたら最初に居た位置に戻すを繰り返していたら、妻さんは僕が動物を愛でることができるお人柄になったと勘違いをしてとても喜んだのでした。

 

さびしかったら隣の人に声をかける。花がきれいだったら摘む。星が出たら見上げる。好きなものをたくさん食べる。ムラムラしたらパートナーを抱く。疲れたらぐうぐう寝る。そのために人の役に立つことをしてお金をもらう。妻さんはそういうことを毎日笑顔でやっていて、生きていて、くやしいけど隣で見ていてちっとも飽きないのである。

僕にはなんでそれがうまくできないのだろう。犬を撫でたり、花に水をやり続ければわかるのかしら、わかるんだろうけど、またこうやって言葉のなかでジタバタが続いている。