横浜たそがれ

 

久しぶりに横浜に行った。

渋谷から東横線に乗ってみなとみらい駅に着いたのは16時30分くらいで、

長い長いエスカレーターに乗って地上に出るとそれはそれは空が広かった。

心地良い潮風を受けながら港町を歩くカップルや公園で遊ぶファミリー、

みんなの顔が柔らかく穏やかだった。全ては広いからだ。広いと心も広くなる。

 

すぐにでもビールを飲みたかったが、夜景を観ながら飲むと決めていたので、スタバかタリーズで時間を潰そうと考えたがどこも満席で、自動販売機で缶コーヒーを買い、海の見える芝生の上に座ってそれを飲んだ。

 

近くで女子中学生の集団がダンスの練習をしながら笑い合っていた。

向こうの広場で大学サークルっぽい集団が円になって座り、懐メロを歌いながら盛り上がっていた。

前の道を何組ものカップルが通りすぎた。そのどれもが少しだけ似ていて少しだけ違っていた。

私は全くの一人だった。

 

陽が沈むにつれてイルミネーションがともされ、夜の横浜への準備が始まった。

私は立ち上がって、尻に付いた芝生を落として、ビールを求め歩き始めた。

テラス席のあるレストランを素通りし、ガラス張りのお洒落なバーも覗くだけにして、

結局コンビニで缶ビールを2本とミックスナッツを買った。

 

今度はまた違った表情の横浜が見える広場を見つけ、ベンチに腰をかけビールのフタを開けた。陽はすっかりと落ちていて夜の横浜とビールがやっと揃った。

 

海の周りにはカメラを構えた人が群がっていた。

ガラの悪そうな男の子たちが広場の奥で騒いでいた。

腰に手を回して歩くカップル。二次会帰りの引き出物を持って歩く集団。汗臭そうなサラリーマンたち。クルージングの呼び込みをする女。ビールや焼きそばを売る男。交通整理をするオッサン。

 

また少し人間が嫌いになっていると感じた。

もちろん人間がいるから横浜の夜はこんなにも美しいのだけど、人間が、というかセックスがなくなればいいと思った。

 

ふと足もとに目を向けると大きなゴキブリがいた。慌てて足を上げた拍子に二本目のビールがベンチの下に落ち、乾いた地面にドロドロと流れ出た。白い泡はやがて消えて黒い染みになった。ゴキブリはとっくにいなくなっていた。

缶を拾い上げると目の前に体格のいいサラリーマンが立っていて「ライターあります?」と聞かれた。

すぐ近くを見ると灰皿があった。私は「すいません」と言った。