今夜このまま

二次会は公園。

さきほどから大きな身振り手振りでくだらないことばかり話しているこいつが今夜の私の相手になるのかしら。

空の闇は十分に濃いのに、近くの電灯が私たちを煌々と照らしているから、男の口から飛び出す唾がいちいち光る。

一次会の居酒屋で飲み過ぎていた小太りの男がベンチで転がっているため、私はパンプスを脱いで地べたに座っている。おろしたてのスカートを越えてちくちくと尻を刺してくる芝生の感触に耐えながら男の話が早く本題に入ることを願っている。

「そう思わない?」

「うん、本当にそう思う」

男の視線が私の足に留まる。蒸れてるから恥ずかしい。脱いだらキクラゲみたいになるこの靴下はいつから流行り出したんだっけ。

男は缶ビールを持つとベンチの前に座り込み小太りの頬をぺしぺしと叩き始めた。男の広い背中を見つめながらこいつはゲイじゃないかと疑ってみる。サキが最初から気に入っていた眼鏡の男とコンビニに行ってから既に15分は経っている。小太りはずっとあのままだし、私の連絡先を聞いて、ホテルに誘うタイミングは絶賛継続中なのに。頭の中がやたらエロくなっているのは私だけなのか。

一方的に小太りにちょっかいを出している男から視線を上に移していく。闇の中一年ぶりの満開の桜。毎年こんなに白かった? って思う。春の雪のよう。

足を投げ出して生ぬるくなった缶ビールをあおる。桜が風に揺れて他のグループの笑い声が届く。ベンチの上で小太りが器用に寝返りを打ち私たちに丸い背を向ける。私は意味も分からず春うららと呟いてみる。

男がこちらに戻ってきて私の隣にどかっと座る。すかさずビールで唇を湿らせる。無言で桜を眺めているので私もそれに従う。小太りの背中が見えなければ言うことないのに。

芝生に置かれたごつごつとした手にそっと指を触れてみる。冷たくも温かくもなかった。重ねてみる。

「居酒屋で話してた話」

「え?」

慌てて手を引く。

「夢の中で、幼馴染と学生時代の友達が夢の競演を果たしたって話」

「あぁ。覚えてたんだ」

「俺も前にあった。俺の場合、まさかの元カノ同士の共演。すげー仲良くて二人でパフィー歌ってやがんの」

私は笑いながら今度は私も参加して二人と一緒にパフュームでも歌ってやろうと思った。夢ならちゃんと踊れそう。

そしてもう一度男の手に触れた。

「今夜このまま……」と言いかけたところで、小太りがベンチからずり落ちて、背後から私を名前を呼ぶサキの声が聞こえた。