伝わる言葉

 

僕は病院で働いているので、今日と違う明日がいきなりやってきた人たちとよくお話をする。

 

なかでも脳の病気をした人たちは、言葉がうまく出せなくなっている人が多いから、そういう人たちとお話をすると、毎回泣きそうになる。

 

自分の思っていること、それをちゃんと理解して、それを言葉にして、相手に伝えるということがどれだけ価値のあることか、今日と同じ明日がまたやってくると思っている人たちにはよくわからない。

 

今日も40代のお仕事バリバリの男性が、半身の機能と言葉を失って僕の前に現れた。

「何か不安なことはありますか?」

「コドモ……」

そう言いながら、その人はたくさん涙を流した。

僕はちゃんと言葉を出せるはずなのに何も出てこない。言えるわけがない。

 

これまた脳の病気で入院して1ヵ月くらいリハビリをした50代の男性に、「今一番やりたいことは何ですか?」と聞いたら、

かあちゃんのメシ……」って笑いながら答えた。

あぁ女になりたいなと思った。

 

子どもの頃は、言葉の持ち合わせが少なくて、ずいぶんと泣いた。

今はあの頃よりもたくさん言葉を知っているはずなのに、まだ泣いている。

 

ダサくても、下手くそでも、伝わる言葉が、とにかく欲しい。