最後の晩餐

 

人生の転機は30代半ばで訪れるとか訪れないとか言いますが、先日走馬灯に出現レベルの衝撃的な晩餐があったのでご報告します。

 

以前ブログでも書きましたが、僕は高校卒業後吉本の養成所に通っていた時期があり、この度当時の同期メンバーと15年ぶりに集まって飲む機会が持てました。

 

雨の日の新宿のとある餃子屋に集まったのは僕を含めて三人。

一人は2年程でお笑いの世界に見切りをつけ、現在はバリバリの営業マンのK君。大阪で働くKの東京出張を機に、Kがこの席を企画してくれました。元々行動力がある奴。

もう一人は今でも養成所の頃と同じ相方とお笑いを続けているM君。売れてはいませんが隔週くらいで所属事務所のライブに出演し、賞レースにも欠かさず参加している、現役の芸人。

そしてお笑いはたった1年で諦めて、レールから外れている自分にひどく怯え、親に頭をさげ大学に入り、すねをかじりつくし、今度こそちゃんと働くと思いきや、就活途中で誤って村上春樹を読んでしまい、今度は小説家になると言い出し、仕事を転々と変えながら、うだつが上がらないを体現し続けている僕。

 

ひさしぶりやな

みんな全然変わらんな

M、まだお笑いやってるなんてほんま凄いわ

え? 子どもおるの? 大丈夫なん?

バイトでなんとかか……大変やな

K、家買ったん? そんな稼いでるん?

年収一千万くらい……そっか……

 

Kがソフトバンクの孫さんがどんだけ凄いかを語り出し、その後大阪と東京の風俗の違いを熱く説明し始めたあたりで、そろそろお開きかなぁと思っていましたが、Kが急に「○○って呼んだら来てくれへんかな?」と言い出しました。

○○は同期でめちゃくちゃ売れている芸人の一人。

そりゃ養成所の頃は友達やったけど、流石に来ないやろう。電話番号とかも変わってるんちゃうか。しかしKは迷わず電話をかけるとなんとすんなり出てくれて、ちょうど地方ロケからの帰りやから、一時間後には合流できるとのこと。

その後もKは新宿のハプニングバーの素晴しさを永延と語っていましたが、僕はハイボールをあおるばかり。何だか初恋の人と再会するような気持で○○を待っていました。

そしてついに到着した○○に小さな餃子屋は大パニック。周りの席の女子は握手を求めるし、店員さんは色紙を持ってくるし。

ようやく落ち着いた○○から驚愕の一言。

「○○②と○○③も声掛けといたで。後から来てくれるって」

○○②と○○③も同期のめちゃくちゃ売れてる二人。ちなみに僕は養成所在学中○○③とコンビでした。

ややあって○○③が来て、続いて○○②が来て。餃子屋がハチャメチャになったので、個室のある飲み屋に移動しました。

 

語り始めたらあっという間に15年前の六人に戻りました。

千日前のマクドで、ハンバーガーひとつ買って、水何杯もお代わりしながら夢語った15年前。オーキャットの広場でペットボトルをスタンドマイクに見立てておもんないネタ何回も練習したあの頃です。

みんなで売れたい売れたいって言ってて、15年後ほんまに売れた三人が目の前にいて、本当に不思議な気持ちになりました。

変わってないとは言いつつも、それぞれの15年が間違いなくそこにあって、あの頃はもちろん、今もみんなちゃんと戦っていました。いろんなもん手に入れて、いろんなもん失って、戦う相手変わったかもしれんけど、やっぱり戦い続けていました。

○○が僕に言いました。

「さるたこはいま何してるん?」

「小説家目指してる。ぜったい賞獲ったるねん」

僕は○○にこう答えながら本当に死にたくなりました。

だって結局書きたいことなんて何ひとつないんやもん。

お前らに負けるんがくやしいから、賞が獲りたいだけで、この数年くそおもんないことなんとか書いてただけやもん。そんなんで面白い小説書けるわけないって、途中からわかってきてたけど、夢追うのやめたら、ぜんぶぜんぶなしになってしまう気がして……

夢の現実と正面から戦っている奴らの前で、また口先だけのことを言ってしまって、一回死にました。

 

蘇ってようやく気がつきました。

みんな真剣に今と戦ってるのに、僕はずっと過去と戦っていたんやなぁと。

人間と戦わない奴に面白い小説は書けません。

この晩餐から、また新しい15年が始まりました。