『乳と卵』 川上未映子

 

川上未映子、恐ろしい女である。

 

セカイとワタシの違和感を、自分だけの言葉で、カタチにした文句のつけようがない傑作である。

 

 

 

ネタバレあり。

 

 

 

 

この小説は、女が書いた女の小説である。

男である僕は、巻子とわたしの銭湯のシーンとか、わたしの生理の描写とか、緑子の女の大人のカラダになる葛藤とか、たいへん興味深く読んだ。

 

男が卒業アルバムを見ながら誰とヤリたいとか騒いでいる間に、女は生理を通して生命とか潮とか月と繋がり始めているのだから、そりゃ人生を惜しみなく楽しもうとするよね。

 

物語の終わりで、緑子は「ほんとうのことを言ってよ」と母である巻子に詰めよる。

おそらく緑子は自分が生まれなかった方がよかったと巻子に肯定してもらいたかったのだろう。

緑子は自分がヒトを産むことができるカラダになる前に、自分を全否定して、生きることの無意味さを証明したかったのだろう。

緑子のその思考こそ、実はほんとうのことなのだけれど、大人たちは、なんとか生き続けている日常のなかで、ほんとうに時々、楽しいとか美味しいとか悲しいとか嬉しいとか、そういった素敵なことが起こりうるから、それを経験して欲しくて、子供たちには、ほんとうのことを言わないんだけれども、それらも全部、女だからこそ、ここまでじっくりと、セカイのあれやこれやに面白味を抱くのであって、男である僕は、ほんとうに、生理とか、妊娠とか、お産とか、女だけのインシデントにひどく憧れてしまうのです。

 

夕涼み よくぞ男に 生まれけり